第3話:偽りの鋼材と百人のバリ取り工

5000万の赤字だった町の塗装工場を黒字化させた7つの方法ー3

第2話:緊急招集と血を流す決算書

問題の部品を引き受け、現場に足を踏み入れた瞬間、私は背筋が凍るのを感じた。
そこには、数十人の作業員が黙々と座り込む「手直し専用ライン」が出来上がっていた。製品は携帯電話の部品。ハードとソフト、二つの異材質プラスチックを組み合わせ、塗装を施して完成する精密部品だ。だが、成形工程で発生する「バリ」が収まらず、小型のハサミで一個ずつ、手作業で修正していたのである。
良品率は、事実上のゼロ。手直しを経てなお、歩留まりは三〇%という異常数値。工場の利益は、このラインで文字通り「削り取られて」いた。
私は、原因である金型を覗き込み、再び絶句した。
稼働して数ヶ月のはずが、十数年使い古したかのようにボロボロだ。原因は一目瞭然だった。柔らかいエラストマーを先に型へ入れる「インサート成形」を採用していたのだ。軟性樹脂が安定して収まるはずもなく、型に噛み込むことで鋼材を傷め続けていたのである。
さらに、決定的な「嘘」を見つけた。
「焼き入れ鋼材」と聞いていたその型を、シャーペンの先端で軽く擦ってみる。……スッと傷が入った。
「焼き入れですらないじゃないか」
その瞬間、私は中国での光景を思い出していた。無知な社長を抱える現地の工場で、上長が自慢げに「これはスターバックス鋼だ(注:当時中国で輸入困難だった高級鋼材を騙ったものか)」と豪語していたあの型。それと同じ、安物のまがい物だった。
まさか日本で、こんな詐欺のようなことが起きているとは。
技術役員からの指示は「既存の型メーカーへ修正指示を出せ」というものだった。だが、私は首を振った。
「修正で済むレベルではありません。工程そのものが腐っています」

理由は明確だった、そもそも工程が間違っており、安定した商品が出来るものでは無かった。また当時の技術役員の頭には、溶接で潰れた部分が直ると思っていたのだろう。

この場合は、金型の合わせが既に、歪んでいる事もありパーティングラインの面を切り直し、製品面を再度削り直す必要があった。ある意味作り直しの必要があった。

そして最大の問題は、型を発注していた金型メーカーだった。

型の発注先は、横浜にある従業員五名ほどの小規模メーカーだった。スピードだけが売りの会社に、同時に三十型以上も発注する。受ける方も受ける方だが、発注する側もどうかしている。無謀という言葉ですら生ぬるい。
私は、全七型の金型を作り替え、工程を根本から見直すプランを提案した。

量産中という時間的制約から、やむなくインサート方式は維持したが、ハード側を先に成形するよう順序を逆転させた。
費用は約一千万円。複数あったため完成まで三ヶ月を要したが、新しい型を順次投入していくと、現場の風景は劇的に変わった。
成形不良は消え、あの忌々しいバリ取りラインは消滅した。結果として、不要になった派遣社員約百人を削減することに成功したのである。
だが、これはまだ、この工場の闇の「表層」を掬い取ったに過ぎなかった。

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Note:https://note.com/haletosu/n/n4c035035e74c

小島 淳