自作の日報集計プログラムには、生産管理以外にもう一つの機能を忍ばせていた。製造現場では困難とされる「個人別の評価指標」だ。中でも、勤務時間に対する実作業時間を表す独自の指標「仕事率」は、工場の健全性を測るバロメーターだった。
運用を始めて間もなく、画面上の数字が私の目を釘付けにした。
「仕事率:0」
そんなはずはない。現場作業で雇った従業員が現場作業をしないで給料を受け取っている人間がいるというのか。最初は入力漏れを疑い、現場の所属長を問いただしたが、返ってきたのはさらに不可解な答えだった。
「その人、昔はいたけど今は来ていないですよ」
戦慄が走った。
対象は派遣会社から送り込まれているはずの従業員だ。本人がいないのに、タイムカードは毎日正確に出勤を刻んでいた。明らかに、本人以外の誰かが身代わりにカードを通している。タイムカードで出勤を確認していた我々の盲点を突いた、あまりに卑劣な手口だった。
私は直ちに事務員へ指示を出し、タイムカード原本のコピーを保管させ、徹底した照合を開始した。
これまでは、派遣会社が月末にタイムカードを持ち帰り、自社のExcelで集計した請求明細を信じるしかなかった。だが、その中身を一枚ずつ暴いていくと、出るわ出るわ、現実とはかけ離れた勤務時間の差異が次々と露呈した。
驚くべきことに、取引していた派遣会社三社すべてにおいて、金額の大小こそあれ「過剰請求」が常態化していたのだ。もはや「入力ミス」という言い逃れが通用するレベルではない。チェックを始める前、一体どれだけの金がこのブラックボックスの中に消えていたのか。考えるだけで、暗澹(あんたん)たる気持ちになった。
慢性的な人手不足という弱みを握られ、取引を即座に止めることはできないというジレンマ。だが、私は譲らなかった。全請求明細とタイムカードの原本、そして私の「日報データ」を照らし合わせ、一分一円の妥協も許さない監査体制を敷いた。
その結果、二割から三割にのぼっていた水増し請求を、私は完全に防ぎ切った。
データによって「現場」を掌握し、さらに「管理」の腐敗をも浄化した私。だが、工場の再生を阻む最大の敵は、まだ深部に潜んでいた。
コメント Comments
コメント一覧
コメントはありません。
トラックバックURL
https://kapagate.com/factory-novel10/trackback/