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第1話:商社がノウハウゼロで建てた「サンダル履き」の欠陥工場

第1話:商社がノウハウゼロで建てた「サンダル履き」の欠陥工場

「もし、あなたが初めて足を踏み入れた精密塗装工場で、作業員が全員サンダル履きだったらどう思うだろうか?」

モノづくりのノウハウを一切持たない商社が、携帯電話バブルの勢いだけで建ててしまった自前の塗装工場。後に工場長として赤字再建の泥沼に叩き込まれることになる技術屋の私が、完成直後に目撃した「違和感だらけの光景」と、奥底に埋もれていた致命的な欠陥のプロローグ。

自分が工場の改善に挑んだ? まあ、あてがわれたのは2006年の8月だったが、過去を振り返ると設立した2000年頃から既につまずいていたのではと思った。

■ ノウハウの無い商社が作り上げた塗装工場の実悲劇

工場の建設については、自分にとっては実は歓迎する内容ではあった。 その数年前に若手社員からなる会社の将来を考える「ビジョン委員会」という組織が立ち上がり、様々な将来のビジョンを掲げたが、その中で自前の工場を立ち上げるというものがあったからだ。

ただ、当初ビジョン委員会で望んだのは、我々は商社でしたので海外製品の受け入れ窓口や国内メーカーの商品を一時保管する「ハブ工場」としての役割だった。 製造のノウハウの無い商社だからこそ、その強みを活かした拠点を望んでいたのだ。

しかし、経営陣には「工場を建てる」、そこだけがクローズアップされてしまった。 この時代は丁度「ガラケー」と呼ばれる携帯電話の生産全盛期。実際、外注を使い売り上げを着実に伸ばしていた。そんな背景もあり、会社としては携帯電話の塗装ラインを作り、他の技術担当がメインで動いていたインサート成形設備を次々と導入していったのである。

自分には「口を出すな」的な空気があり、完成するまで完全に蚊帳の外となっていた。 この頃は、まさか自分が後にこの工場の工場長をやることになるなんて、夢にも思っていなかった。

■ 初めての工場訪問――目の前に広がる「違和感」の正体

工場が完成し、初めて現地を訪問した時のことだ。 一歩足を踏み入れた瞬間、工場としては違和感でいっぱいだった。 自分はそれまで外注先として100以上の工場への訪問を繰り返していたおかげで、ある程度は目が肥えていた。

まず強烈な違和感を覚えたのは、工場内が「サンダル履き」だったことだ。 単純に言って、「工場でサンダル?」というのが最初の率直な疑問だった。自分の中では、工場内は運動靴、できれば安全靴が常識だと思っていたからだ。

さらに細部を見て愕然とした。使っていたサンダルは、わざわざ高価な「帯電防止性能」のあるものを採用していた。しかし、あろうことか床には絶縁性の高い「グリップコート」が塗られていたのだ。 床が絶縁されているため、サンダルの帯電防止性能は完全に殺され、静電気の逃げ場がなくなっていた。逃げない静電気を抑えるため、現場では除電器を大量に使用していたが、結果として製品にホコリが付着しやすい最悪の環境が自ら作り出されていた。

極め付きは、塗装ラインの構造だった。 クリーン環境が保たれていなければならない塗装ラインから、なぜか直接屋外へ出られる扉が設置されていたのだ。専用設計でイチから建てたはずの工場なのに、なぜこんな構造になっているのか――首を傾げざるを得ない奇妙な設計ばかりが目についた。

だが、この時目撃していた違和感など、工場の奥深くに潜む「巨大な爆弾」の、ほんの氷山の一角に過ぎなかった。 この時はまだ、建物の躯体そのものに埋め込まれた「致命的な欠陥」に、誰も気がついていなかったのである。

【結び・次回予告】

案の定、仕事が来ずに閑古鳥が鳴く新設工場。 焦った上層部が下した「ある命令」をきっかけに、自社工場へ最初の発注が下る。 しかし、技術屋の私が「不良が出る要素などゼロ」と確信していた単純な部品で、まさかの不良率40%という大炎上が勃発する――。

次回:第2話『閑古鳥が鳴く工場と、不良率40%のモックアンテナ』へ続く

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