毎年のように猛暑の厳しさが増す日本において、工場内の熱中症対策は、もはや企業の努力目標ではなく、法令に基づく義務となっています。労働安全衛生法に基づく安全配慮義務のもと、企業は従業員が安全かつ健康に働ける環境を提供しなければなりません。特に、熱中症は重大な労働災害として位置づけられており、その対策の義務化は年々強化されています。
しかし、「熱中症対策の義務とは具体的に何をすればいいのか?」「どの基準を満たせばいいのか?」といった疑問を抱える経営者や担当者も多いでしょう。本記事では、工場改善の専門家である筆者が、工場 熱中症対策 義務化の背景にある法令、具体的な義務の内容、特に重要なWBGT(暑さ指数)の基準と測定・管理方法までを徹底的に解説します。法令を遵守し、リスクゼロを実現するための具体的な導入戦略までをご紹介します。
工場における熱中症対策が義務化されている背景には、労働安全衛生法に基づく企業の最も重要な責任である「安全配慮義務」があります。
労働安全衛生法:
企業(事業者)は、労働者が安全かつ健康に労働できるように、必要な措置を講じる義務があります(労働安全衛生法第3条、第20条)。熱中症はこの義務を怠った場合の重大な労働災害とみなされます。
労働契約法:
労働契約法第5条では、「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする」と定められており、熱中症対策を怠ることは、この安全配慮義務違反となり、企業の責任が問われる可能性があります。
熱中症対策の義務化において、対策の判断基準として国が推奨しているのがWBGT(Wet Bulb Globe Temperature:暑さ指数)です。
WBGTの定義: WBGTは、気温、湿度、輻射熱(太陽や機械からの熱)の3つを取り入れた複合的な指標であり、人体と外気との熱のやり取りを表す指標として、熱中症の危険度を判断するのに最も適しています。
WBGTに基づく措置: 厚生労働省は、「熱中症****対策のための労働衛生管理マニュアル」などに基づき、WBGTの値に応じた適切な措置を事業者に講じるよう求めています。これは事実上の義務化の根拠となっています。
厚生労働省のガイドラインに基づき、工場が具体的に講じるべき熱中症対策の義務は、以下の3つの柱に分けられます。
作業環境そのものをWBGT基準に基づいて改善する義務です。
WBGT値の低減:
作業場所のWBGT値を把握し、基準値以下に下げるための措置を講じなければなりません。
対策事例: 屋根への遮熱塗料の塗布、換気設備の強化(ルーフファン)、エアコンやスポットクーラーの導入など。
輻射熱の遮断:
太陽光や機械の熱(輻射熱)が作業者に直接当たらないように、遮光カーテンや遮熱板、断熱材を設置する義務があります。
作業内容や休憩の取り方など、作業の進め方そのものを熱中症対策の観点から管理する義務です。
WBGT値に応じた作業負荷の軽減:
WBGT値が基準を超える場合、作業時間を短縮したり、作業強度を下げたりする義務があります。
WBGTが31℃以上(危険レベル)の場合、原則として作業を中止するか、WBGT値を下げる措置が必要です。
水分・塩分補給:
休憩時間だけでなく、作業中にも労働者が容易に水分・塩分補給ができるよう、水やスポーツドリンク、塩分タブレットなどを適切に準備する義務があります。
休憩時間の確保:
WBGT値に応じて、適切な休憩時間を確保する義務があります。特に、高温下での作業では、通常の休憩時間とは別に、クールダウンできる場所での休憩時間を設ける必要があります。
労働者の健康状態を把握し、熱中症の兆候を見逃さないための義務です。
健康状態の確認:
作業開始前に、体調不良者や持病を持つ者、前日の睡眠不足者などを把握し、高温下での作業を制限するなどの措置を講じる義務があります。
緊急時の措置:
熱中症発生時の緊急対策(救急車の要請、応急処置、連絡体制)を定めて、労働者に周知徹底する義務があります。
教育・訓練:
労働者に対し、熱中症の症状、予防対策、応急処置の方法について、定期的に教育・訓練を実施する義務があります。
熱中症対策の義務化に対応するための核心は、WBGTの測定と、その数値に基づく管理戦略です。
設置場所:
WBGT計を、作業場所の高さ(立作業の場合は床面から1.1m、座作業の場合は0.6m)に、熱源や窓からの直射日光が当たらないように設置します。
測定頻度:
熱中症の危険性が高い時期には、少なくとも1時間ごとにWBGT値を測定し、記録する義務があります。
アラート設定:
WBGT値が基準値に近づいた際に、警報(アラート)が鳴るように設定し、作業者に注意を喚起する仕組みを導入しましょう。
WBGT値(℃) | 措置のレベル | 講ずべき主な義務的措置 |
31℃以上 | 作業中止 | 原則として作業を中止。WBGT値を下げる措置を優先。 |
28℃〜31℃ | 厳重警戒 | 連続作業時間を短縮し、休憩時間を増加。水分・塩分補給を強力に推奨。 |
25℃〜28℃ | 警戒 | 積極的に水分補給。作業負荷が高い場合は適宜休憩を指示。 |
25℃未満 | 注意 | 定期的な水分補給を促す。 |
WBGT測定や管理システムは、「安全衛生環境の改善」を目的とした国や自治体の補助金の対象となる可能性があります。特に、IoTを活用した遠隔WBGT監視システムなどは、補助金を積極的に活用すべき設備です。
工場 熱中症対策 義務化は、企業にコスト負担を強いるものではなく、従業員の安全と健康を守り、結果として生産性を高めるための戦略的な投資を促すものです。
法令遵守: 労働安全衛生法に基づく安全配慮義務を果たすため、WBGT値に基づいた作業環境管理、作業管理、健康管理の3つの柱で対策を徹底しましょう。
WBGT管理: WBGT計を適切に設置し、測定した数値に基づいて客観的に休憩や作業負荷の調整を行う義務を履行しましょう。
補助金の活用: 空調服やスポットクーラー、WBGT監視システムなどの導入には、補助金を積極的に活用し、コストを抑えながら義務を果たすことが可能です。
工場改善の専門家として、筆者は、この義務化への対応が、日本の工場を安全で快適、そして持続可能な「スマートファクトリー」へと進化させるための重要な一歩だと考えています。
厚生労働省 公式サイト: https://www.mhlw.go.jp/
職場における熱中症予防対策、労働安全衛生法、労働契約法、熱中症****対策のための労働衛生管理マニュアルに関する情報が参照可能です。
環境省 熱中症予防情報サイト: https://www.wbgt.env.go.jp/
WBGT(暑さ指数)に関する情報が参照可能です。
経済産業省(METI)公式サイト: https://www.meti.go.jp/
設備導入に活用できる補助金情報が参照可能です。